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〝仲間〟とクラブでアガるためのひと粒だったのに… ドラッグ タカシさん(20代後半 ゲイ)

ギャンブル、セックスと、一旦ハマるとそればかりをしてしまうタカシさん。もともとの音楽好きからクラブに行き始め、クラブ通いにハマっていた頃、イケメンに声をかけられた。彼はある日、「依存性はないし、もっと音楽が楽しめるから」と、MDMAを勧められる。口に入れてみたら、音楽が鮮明に聞こえるようになるだけでなく、グループの仲間として認められた。しかし、「楽しい」日々はそう長くは続かない。なぜパーティードラッグにハマってしまったのか、そこからどう抜け出すことができたのか。

コミュニティの外から少しずつ内側へ

実家の家族はみんなギャンブル好きでした。自分もそうで、田舎から東京に出てきたときは、週末の休みにはパチンコばっかりしていた気がします。男が好きだとは思っていたけど、いずれ女の子を好きになるかなって、最初はゲイの人に会ったりはしていなかったくらいです。

それから彼氏もできたけど、ひどい形で別れた。それがきっかけにもなって社宅から引っ越しました。生まれて初めての一人暮らし。解放感と、恋愛疲れで自暴自棄なったのとで、男性を家に連れ込んだり、ハッテン場(男性間で性交渉する場を提供するお店など)に週に2、3回のペースで通い詰めたりするようになりました。セックスにハマっていた時期ですね。
もともと、きっかけがあると何かにハマりやすい性格なんだと思います。

クラブと憧れ

一年もハッテン場通いをするとセックスだけという関係にも飽きてきて、何かほかのつながりがほしくなりました。人見知りだから、ゲイバーは自分の性格に合わないと思った。でも、音楽が好きだから、クラブは居心地が良かったんです。一人で来て、一人で楽しむようになりました。

クラブって、GOGOとかDJとか、鍛えている人が多いんですよね。自分もああなりたいなって憧れて、体を鍛え始めました。そしたら、1年くらいジムでがんばって体が大きくなったからだと思うんですけど、そのクラブでは特にキラキラしていたイケメンに、「きみ可愛いね」って声をかけられました。その人と一緒に遊ぶうちに、大きなイベントにも誘われるようになった。こんな人と一緒に遊べるんだって思った。

そのうち、みんなで楽しんでいるときにその人が友だちグループと一緒に消える瞬間があるのに気づきました。「何してるの?」ってきいてみたら、「実はこんなのあるんだけど食べてみる?」。MDMA(幻覚剤に分類されるパーティードラッグ、合成麻薬の一種。有名なのは「エクスタシー」)でした。

「依存性はないよ」「音がよく聞こえるようになるし、疲れなくなるよ」「クラブがもっと楽しくなるよ」と説明されました。
ちょっと迷ったけど、その人のことを信頼していたし、もっと一緒にいたい気持ちが勝ちました。まず半錠を服用してみたら、その直後は具合が悪くなったけど、次の瞬間にはすごく音がよくなって感じられた。世界が輝いて、とても「幸せな」気分になった。

今思うと、この最初の経験がその後と比べても最高で、感動的でした。この時の気分をまた味わいたくて、その後もMDMAを使い続けたのかもしれません。

一回経験しただけで、その人のグループのメンバーみんなが、自分のことを「仲間」だと認識しました。輪に入れたことがうれしかった。それ以降、クラブに行けばその人や仲間から1個4、5000円のMDMAを買うようになりました。

楽しさと恐怖は紙一重

こうした遊びに馴染んでくると、グループメンバーのホームパーティーにも呼ばれるようになります。そこでは、今度はケタミン(幻覚作用のある合成麻薬に指定されている、麻酔薬の一種)が出てきた。複数人で1袋シェアして、2万円くらいでした。

ケタミンはMDMAよりもっと浮遊感があった。でも、こういうパーティドラッグは本当にみんなヘロヘロになってしまうので、そこからセックスが始まるということはなかったと思います。とにかくパーティーを楽しくするために使っていた。

そして、失敗しました。少し調子に乗って、ケタミンを吸いすぎた。バッドトリップ状態に入っちゃったんです。正直なところ、自分は死ぬんじゃないか、ていうか、死んだんだと思った。

しばらくしたらクスリが抜けてきたんですけど、周りの人は「おかえり」って言うだけで、特に心配するそぶりは見せなかった。それが余計におそろしかった。自分はあの体験が「快楽」とは思えなくて、とにかく「こわい」って感じたんです。

それから、MDMAを服用しても、動悸がしてきて落ち着かなくなっちゃう感じがこのときの感覚に似ている気がして、気持ち悪くて口にも入れられなくなりました。

覚せい剤には手を出さず

その後、ドラッグを使っている乱交パーティーに、そうとは知らずに行ったことがあるんです。でも、パーティードラッグの雰囲気を知っていたからか、セックスドラッグのキマり方は、自分には全然気持ち良さそうじゃなかった。それに、ハマりやすい自分の性格を考えると、依存性の高い覚せい剤のほうにはいっちゃいけないなとも思いました。

「彼ら」は遊べる人とだけ遊びます。MDMAはじめ、何かとお金もかかる。だから、高学歴、高収入、一流企業に勤める人が多いです。高卒で、名も知らない企業で働いているような人はいません。自分は場違いだなとは思っていたし、お金も結構きつかった。

それでも、ケタミンの吸いすぎがなくて、軽いキマり方だけだったら、いまでもあのグループにいたかもしれない。ただ、あの「こわさ」を経験した今は、どんなにタイプの人に誘われても、自分はMDMAを口にしたいとは思えません。

【もしいま同じような境遇の人に相談されたら】

自分と同じように、クラブの音楽が好きでクラブに来た子は、最初の数カ月はいろんなグループに様子を見られることがあります。この子は遊べそうかな、秘密を漏らさないかな、ということを確認してから、ある時誘ってくる。「もっと音楽が楽しくなるよ」って。

でも、口にするかどうか迷うくらいなら、ただ純粋にクラブの音楽を楽しみたいだけなら、「お酒でいいんじゃない?」って思います。軽い気持ちで、「興味ある」という程度だったら、手を出さないでほしい。

 
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